【人新世の資本論】SDGs は大衆のアヘンである!【衝撃作です】

SDGs

このブログではおなじみのSDGs関連で、面白い本はないかと探していたところ人新世の「資本論」に出会えました。この本はかなりパンチの効いた本です。

SDGsとは「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の略称であり、国連が主導で、気候変動による環境問題や人権問題など国際社会の共通目標で2030年の達成を目指しています。

人新世の「資本論」は冒頭から「はじめにーSDGs は「大衆のアヘン」である!」という言葉から始まり、「温暖化対策としてレジ袋削減、エコバッグ、マイボトル、ハイブリッドカーを使っているという善意だけならば無意味であり、むしろ有害である」

といきなり過激なテーマを突き付けます。

なぜなら「温暖化対策をしていると思い込むことで、真に必要なアクションができなくなるから」です。

政府や企業がSDGsの行動指針をいくらなぞったところで、気候変動は止められない、むしろSDGs はアリバイ作りだとまで著者はいいます。

ではどうしたら良いのか?

気候危機の最大の原因は「資本主義」で、二酸化炭素の排出量が大きく増え始めたのは産業革命以降です。

産業革命直後に「資本」について考え抜いた思想家カール・マルクスの「資本論」をベース人新世の「資本論」は書かれています。

いきなりマルクス?資本論?と驚きつつも読み進めると、SDGsを本気で達成するためには「資本主義」の在り方を根本から見直す必要があることを、わかりやすく説明しています。

ちなみに「SDGs は大衆のアヘン」はマルクスが、資本主義の辛い現実や苦痛を和らげる「宗教」を「大衆のアヘン」だと批判したことから、SDGsは現代版の「大衆のアヘン」といった意味です。

アヘンに逃げ込むことなく、直視しなくてはならない現実は「私たち人間が地球のあり方を取り返しのつかないほど変えてしまった」ことです。

壮大なテーマですがまとめたいと思います。

ポイント・オブ・ノーリターン

ポイント・オブ・ノーリターンとは、急激で不可逆な変化が起きて「以前の状態に戻れなくなる地点」のことです。

2020年6月にシベリアで気温が38℃に達した。永久凍土が融解すれば大量のメタンガスが放出され、気候変動が進行する。水銀が流出したり、炭疽菌のような細菌やウィルスが解き放たれるリスクやホッキョクグマが行き場を失う。

急激な気温上昇によってサンゴは死滅し、漁業にも大きな影響が出る。夏の熱波や巨大な台風、豪雨によって農作物だけでなく深刻な被害が毎年起こる。

気候変動の大きな原因は二酸化炭素で、中国、アメリカ、インド、ロシア、日本の5カ国で世界全体の60%近くの二酸化炭素を排出しています。

大量生産・大量消費の社会に暮らす日本では、自動車の鉄、ガソリン、洋服の綿花、牛丼の牛肉にしても「遠い国」から運ばれて来ます。

インドの綿花栽培は、40℃の酷暑の中で貧しい農民が作業を行っています。ファッション業界からの需要増大にあわせて、農民は遺伝子組み換えの種子と化学肥料、除草剤を毎年購入し、干ばつや熱波のせいで不作になれば借金を抱えて自殺に追い込まれることも少なくありません。

この時点でエコバッグを買って使っているだけで「温暖化対策をしている」と思い込むことの恐ろしさを感じます。

このまま無策で先進国の豊かな生活を続けると、以前の状態に戻れなくなる地点に到達します。まさに待ったなしの状態です。

四つの未来の選択肢

グローバルな公正さという観点でいえば資本主義はまったく機能しない。その不公正を放置すると、地球はひとつしかないのだから人類全体の生存率を低めている。

人新世の「資本論」では「平等」を軸に考えたときに四つの未来の選択肢を説明している。

【不平等×権力が強い】①気候ファシズム

現状維持を強く望み、資本主義と経済成長にしがみつくと多くの人々が住む場所を失い環境難民となる。一部の超富裕層だけは環境危機を商機に変えて今以上の富を手に入れる。

【不平等×権力が弱い】②野蛮状態

環境難民が増え食料生産もままならなくなり、飢餓や貧困に苦しむ人々は反乱を起こす。超富裕層1%と残りの99%の争いで大衆が勝つと、人々は生存だけを考える野蛮状態と化す。

【平等×権力が強い】③気候毛沢東主義

「野蛮状態」を避けるために「1% VS 99%」という貧富の格差を緩和しながら、トップダウン型の気候変動対策を行う。自由市場や自由民主主義の理念を捨てて、中央集権的な独裁国家が成立する。

【平等×権力が弱い】④脱成長コミュニズム

脱成長を掲げながら「持続可能で公正な社会」を目指す。国家や専門家に依存せず自治管理や相互扶助をおこなう持続可能性と平等を重視するコミュニズム。

地球環境の破壊を行っている犯人が、無限の経済成長を追い求める資本主義システムなので資本主義のもとで「脱成長」を実現することは不可能だと筆者はいいます。

欠乏を生んでいるのは資本主義

資本主義による強制的な奪い取りの対象は、労働力だけでなく地球環境全体です。

資本主義の本質は「私個人だけにとっての富を追求する」ことで、「多くの人々にとって価値のある富の追求」ではありません。

1%の富裕層が支配する世界で99%の人々は貨幣を手に入れるために、他人の命令のもとで長時間働かなくてはならないのです。

資本主義に生きる労働者のあり方をマルクスは「奴隷制」と呼んでいました。

無限に欲望をかきたてる資本主義のもとでの消費の過程で、人々は豊かになるどころか借金を背負うのです。

住宅購入に30年にもわたるローンを抱えた人々は負債を返済すべく、長時間働かなくてはなりません。

人々を無限の労働に駆り立てたら、大量に商品ができる。だから人々を無限の消費に駆り立てねばならない。

この連鎖がつづけば確かに地球がいくつあっても足りませんよね。

結論!脱成長コミュニズムが世界を救う

脱成長というと節水・節電をして、肉食をやめ、中古品を買い、物をシェアするといった「自己的抑制」に焦点があたりがちだが、労働のあり方を抜本的に変えないと資本主義には立ち向かえないと著者はいいます。

脱成長コミュニズムとはどういった世界なのか?

①使用価値経済への転換

「使用価値」に重きをおいた経済に転換して、大量生産・大量消費から脱却する

商品の質や、環境負荷を考えずに一度売れてしまえば、その商品がすぐに捨てられても構わないといった思想を止め、多くの人にとって価値がある「使用価値」を優先させた生産を社会的な計画のもとに置く。

②労働時間の短縮

労働時間を削減して生活の質を向上させる

資本主義のもとではオートメーション化は「労働からの解放」ではなく「ロボットの脅威」や「失業の脅威」になっているが、コミュニズムではワークシェアによってGDPでは表れないQOL(生活の質)の上昇を目指し、労働時間を短縮し、子育てや介護などに時間が使える。

③画一的な分業の廃止

画一的な労働がもたらす分業を廃止して、労働の創造性を回復させる

労働そのものが魅力的であり創造性や自己実現の活動にかえる。利益よりもやりがいや助け合いが優先される。

④生産過程の民主化

生産のプロセスの民主化を進めて、経済を減速させる

「使用価値」に重きを置いて、労働時間を短縮するために開放的技術を導入し、労働者たちが生産における意思決定権を握る。

⑤エッセンシャル・ワークの重視

使用価値経済に転換し、労働集約型のエッセンシャル・ワークの重視を

資本主義で高給をとっている職業のマーケティングや広告、コンサルティング、金融業、保険業といった「使用価値」をほとんど生み出さない無意味な仕事から、人間が労働しないといけない「労働集約型産業」を重視する。

ここまできて⑤の「マーケティングや広告、コンサルティング」に関与している私としてはドキドキしますが、使用価値のある持続可能性を重視したオーガニック食品や化粧品、ライフスタイルを提唱しているので、少しだけましかもしれません笑

マルクスの思想をベースに書かれた人新世の「資本論」では、マルクスが目指していた理想の変化を説明しています。

マルクスというと「社会主義」や「共産党」といったイメージが強く、マルクス主義と脱成長は水と油の関係であるといわれてきましたが、最晩年では「脱成長コミュニズム」の思想にたどりついていると著者はいいます。

資本主義の限界は現代でもリアルに感じている課題です。だから社会主義だ!ということではなく、当たり前を疑う姿勢が必要なんだと思います。

サスティナビリティを重視した食べ物やライフスタイルに惹かれる私としては、「脱成長コミュニズム」に親和性を感じました。

労働のあり方も全くその通りで、ストレスの多い無価値な仕事を長時間働き、住宅や車といったローン返済のためにさらに残業して、生活を切り詰めて生きることに価値を感じられません。

資本主義の中心にいるアメリカではZ世代やミレニアル世代が「ジェネレーション・レフト」と呼ばれ、資本主義よりも社会主義に肯定的な見方を抱いています。

彼らはデジタル・ネイティブであり最新のテクノロジーを自由に操りながら、世界中の仲間とつながっています。

未来をよりよくしていこうと考えている若者たちと一緒に、私も何かできないかと考えています。

「地球を壊す資本主義をやめて、脱成長コミュニズムへ変えていく」というとても深いテーマだったので、ここまで要約することが大変でしたが、面白い本でした!

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